#短編物語 『虹色のグラスハープ』(初稿)

【★更新日 2023/9/25】

 
 
 
こんにちは、清水(シミズカイル)です!
今回、noteのお題企画「#こんな学校あったらいいな」をふとしたことで目にし、短編の物語を書きました。
 
 
最新の【改訂版】をアップしました

⇒ https://fermata.top/archives/3586/

 
 
小説(物語)を書くのは、生まれて初めて。
図らずもこのタイミングで、こんなふうに自分の内にあるものを「1つのかたち」にすることになりました。
(自分の中では劇的な流れがあったんです。笑)
 
ただ、大まかなイメージの着想が浮かんだあと、しばらく別の仕事にかかりっきりになり、最後〆切まぎわに数日で執筆したため、残念ながら、まだまだ納得がいくものにはなっていません。
 
文章がうまく流れてないようなところがあったり、4000字という字数制限のなか、「これは内容的にも、物語が機能するためにも大事なんじゃないか‥」と感じるようなことが、全体の構成のなかに思うように収まらず、〆切の時刻に追われるなかで削除することになったり。
 
また肝心の結末部分も、自分のなかにある“感じ”を、まだ言葉としてうまく捕らえきれてなくて、何かがしっくりきていません。
(そして結局、字数は大幅にオーバー・・笑)
 
そんなわけで、『未来の学校のスケッチブック』の1枚でもあるこの作品は、今後の出版に向けて(勝手に出版決定。笑)、折をみて手直しできたらと思っていますが、今回は「草稿」ということで、お読みいただけたらと思います(^^)
 
 
 
以下は旧稿です (*改訂版はページのトップへ!)
↓↓↓

 
 

⭐️『虹色のグラスハープ(仮題)』

 

「さぁ、今日もやるぞ!」
ボクが教室にはいっていくと、もう皆んなは集まっていて、準備をはじめているところだった。

今日の朝は、先週からはじまった「グラスハープ・プロジェクト」の続きだ。
グラスハープというのは楽器の名前。ボクはこれまでこんな楽器があるなんて聞いたこともなかったんだけど、今度どのプロジェクトに参加するか迷っていたときに、学校のスタッフの先生が、「海斗くんは、これなんか良いんじゃないかな?」と勧めてくれたんだ。

ガラスのグラスを平らな机のうえに置いて、倒れないように土台のところを手で押さえる。それで、もう片方の手の指先をちょっと水で濡らして、グラスのふちをなぞるように、ぐるっと円を描きながら軽くこする。

一番はじめにやってみたときは、うまく音が鳴らなかったんだけど、つっかからないように強すぎず、でも弱くなりすぎないように、指先の力をうまく加減すると、
《ポォワァァ〜〜〜〜〜ン》
「わぁあーーーー!鳴ったぁーーーー!」
教室ぜんたいに、どこまでも透き通った音がいっぱいに広がり、その中をボクたちの歓声が駆け抜けた。
「わたしもやってみたいー!」
1つ年上の美樹ちゃんが真っ先に手をあげ、今回この教室に集まった7人全員が、代わるがわるグラスを奏でていった。
なんでもないグラスがこんなにきれいに響くことの興奮と、そんな心を穏やかにしずめてくれるような音色がまじりあう、なんともいえない感じにボクたちは包まれた。

「今回、先生もいろいろ調べてみたりしたんだけど、これが面白いのは、実はグラスによって鳴る音がそれぞれ違うんだ」
そう言いながら、先生が用意したたくさんのグラスを出してくれた。
細長いグラスもあれば、大きいおわんのようなものも、色々なグラスが並んでいる。
「みんな、好きなのを1つ取って、鳴らしていってみようか」
ボクたちは順々にグラスを手にとって音を出してみた。
「あ、ほんとだー全然ちがう!」
「そうなんだよ、グラスはたくさんあるけど、1つひとつどれも違う音がするんだ」

「そうしたら次は、グラスに水を入れてみてごらん」
先生にそう言われて、今度は、それぞれ水を注いだ手もとのグラスのふちを、もう一度指の先っぽでこすってみた。
《ボォオオ〜〜〜〜〜ン》
さっきとは明らかに違う、低い音が鳴った。
「わかった!水の量で、音が変わるんだ」
ボクが言うと、すぐに光輝くんが反応した。
「じゃあ、うまく水の量を調節すれば、ピアノとかみたいにドレミファって鳴るようにできるんじゃない!?」
光輝くんはボクより1つ年下で、今まで何度か一緒にプロジェクトをやったことがあるんだけど、いつも鋭いことに気がつく。
「そういうこと!だからこれはちゃんとした楽器になるんだ。実際に、昔はこれを演奏しやすいようにちょっと工夫した楽器が大人気になって、モーツァルトとかもその楽器のために曲を書いたりしたんだって」

面白いな‥と思って、グラスに顔を近づけてよく見てみると、「あっ」、水の表面が波だっているのが見えた。
「そうそう、グラスが鳴ったのは、指でこすることで、グラスが震えたからなんだ。音がするっていうのは、何かがブルブル震えてるってことなんだよ。振動っていうんだけどね」
「じゃあ、机を叩いたり、風がビューって吹いたり‥ あと、お母さんが大きな声で怒ったりしたときも、ぜんぶ震えてるってこと?」
皆んなが声をあげて笑った。
「いや、ほんとそうだよ!そのとき美樹ちゃんのお母さんはすっごいブルブルしてると思うよ。今度お母さんが怒ったら、触ってみてごらん」
「でも、まちがってもバンって叩いちゃダメだよ。すっごい音で鳴っちゃうから」
光輝くんの冗談に、教室中が笑いに包まれた。

こうしてボクたちは、一気にグラスハープに夢中になっていったんだ。

 

学校のあちこちで、子どもたちが色々なことに取り組んでいる。
窓のそとの校庭ではいま、熱気球をつくって飛ばすプロジェクトが進行中だ。なんでも、自分たちで昔の火起こし器を工作して、ご飯をつくる教室をやったときに、小さな種火を大きく育てる焚き木の組み方から、熱くなった空気が軽くなることを知って、「それなら!」とある子が思いついたらしい。

向こうの教室では、「人はなぜ戦争をするんだろう」というテーマで、自分たちの心について考えたり、いま世界で起こっていることや歴史のことを調べたりするクラスをやっているし、もちろん自分の力にあわせて、基本的な日本語や計算を学ぶクラスもある。

ボクたちはこうやって、1年を通して色々なプロジェクトやクラスに参加して、たくさんのことを学んでいくんだ。
自分の興味や課題によって、いろいろな年齢の子ども同士が、一緒になって活動したり勉強をしたりする。もちろんプロジェクトごとに集まる仲間も変わる。でも、いつでも同じ1つのことに向かって、協力して学びあうということには変わらない。

 

「じゃあ、今日からみんなで何か曲を弾いていこうか」
ひと通りグラスハープのことに触れたボクたちは、いよいよ実際にいくつかの曲を演奏していくことになった。

グラスハープは1つひとつの音もすごくきれいなんだけど、曲を合奏するなかで、ボクは和音の素晴らしさの虜になっていった。1つひとつの絵の具が溶けあって、新しい色が生まれるように、音のまざりかたによって、まったく新しい「1つの音」が鳴りだす。
「そうだ、グラスに入れる水にそれぞれ絵の具で色をつけよう。ドレミファソラシド、ちょうど7音だから虹色にしよう」
すっかり緑や黄色や赤に染まった山肌から、秋の澄みきった青空をわたって、風がアイデアをはこんできた。

ドレミファといえば、あるとき光輝くんがこんな質問をしたことがあった。
「先生、ちょっと思ったんですけど、グラスハープの音をドレミファに合わせるのに、鍵ばんハーモニカの音を使いましたよね。でもそのハーモニカのドレミファも、元はなにかに合わせて作った。じゃあ、一番最初のドレミファはどうやって作ったんですか?」
「おっと、それはすごいことを思いついたね」
ほかの皆んなも、そんなことを考える光輝くんに関心しているようだった。
「ひと言で言うのは難しいんだけど‥」と、先生はことばを選ぶようにしながら、こう続けた。
「ドレミファの正体は数なんだ」
「音と数が関係あるの?!」
「うん、ちゃんと言うと『比』っていうんだけどね、その橋をわたると、音の世界と数の世界がつながっていくんだ」
「そうだ、今回のプロジェクトが終わったら、この世界に初めてドレミファが生まれたときのことを体験するプロジェクトなんてやってみたら、面白いかもね!」

一歩進むと、それまでは見えなかった新しい景色が自分の前に現れてくる。そんな瞬間がいっぱいある。1つのことのなかにはたくさんのことが詰まっていて、そして、インターネットの世界で色々なものがリンクでつながっているように、1つの体験から世界がどんどんと広がっていく。

そういえば、前にいつか先生が言っていた。
「みんながこの学校を通して、自分の惹かれることをどんどんやっていったその先に、キミの宇宙の何かがきっと見えてくるよ」って。

 

曲の演奏を始めてから数週間が経って、ボクたちの合奏もだいぶ上手になってきた頃、ついに先生が言った。
「すごいね!よし、じゃあ‥そろそろ始めようか!」
「やったー!」
皆んなの眼が大きく輝いた。
実は今回、ボクたちのプロジェクトでは、自分たちでオリジナルの曲を作曲して、十二月にあるクリスマス会で演奏することになっているんだ。

でも、いざ曲作りをするのは、皆んな初めて。もちろんそんな勉強はしたこともない。
どうしようか‥ 少しの間、皆んなは考えこむように、手もとのグラスに目を落としていた。

「ねぇ、こんなのどう?」
沈黙をやぶって、ボクが呟くように言った。
ぱっと皆んなの視線が集まるなか、ボクは何も言わずに目を閉じて、簡単なメロディーを小さな声で口ずさんでみた。
♪ドレミーミー ミファーミレーソー ソラーシドードー シシーソラーー‥♪

「すごい海斗くん!天才じゃん!」
歌が終わるやいなや、美樹ちゃんがびっくりした顔で、真っ先に声をあげた。
「すごい、すごい!」
皆んなも次々に口を開いた。
「そ、そう‥?」
「どうやって考えたの?!」と光輝くん。
ボクはみんなの反応にちょっと驚きながら、答えた。
「どうやってって、ただ‥いつもふとしたときになんとなく流れてくるんだ。風景を見てたり、何かあって気持ちが動いてたりするときとかに。でも、そんな大したことじゃないよ」
「そんなことない!」
ちょっと興奮ぎみの美樹ちゃんの声に、ボクはちょっと押されるような気がした。
「そんなことないよ!海斗くんのいまの曲、絶対かたちにしよ!」
皆んなも一斉にうなずいた。

ボクたちはそれから、実際にグラスハープを鳴らしながら、色々な音の響きあいを試しては、メロディーを膨らませ、それを五線譜に書きとめていった。
はじめは、ただの線だったのが、だんだん七色の音符が散りばめられるように並んでいき、いつだったか美術館でみた1枚の絵画みたいになっていくようだった。
すっと音が決まるときもあれば、たくさんの可能性のなかで、やればやるほど迷って、ほどんど何も進まないこともあった。
でも、自分たちの耳を頼りに、そして心に届いてくる響きを信じて、ボクたちは進んでいった。

 

年々遅くなっている初雪が、今年ははやく降り、山々が白く輝きだしている。
気づけばもう、あっという間に十二月。皆んなで作り続けてきた曲も、ついに完成した。
クリスマス会は、もう来週だ。

今日はこれから、リハーサルを兼ねた、初めての“発表会”。
実は、これまで作曲をしている間、先生には教室から出てもらっていたんだ。自分たちで作りあげた曲を、一番最初に聴いてもらいたかったから。先生も、あまりないことだけど‥と少し戸惑いながらも、「わかった、楽しみにしてる。先生もドレミファを作る教室のこと、考えたりしてるから」と言ってくれた。

準備は整った。
ボクは少しドキドキしながらも、これまでの練習通りに皆んなと呼吸をあわせて、そっと最初の音を鳴らした。
自分の人指し指から流れでる音楽。教室いっぱいに響く自分たちの音楽に包まれて、ボクはしだいに、今までにない感覚が広がっていくのを感じていた。

指先に感じるグラスのかすかな振動。
音と音がふれあい、その瞬間につぎつぎと色を変えていくのが見える。
まわりの皆んなの奏でる音が、ボクのなかに聴こえてくる。
そして最後、すべての音がどこか彼方に消えていったあとの、静寂。
それが鳴り終わったとき、ボクは自分の腕をそっと下ろした。

 

すっと顔を上げると、先生が涙ぐんでいる。
そしてボクたちに教室の真ん中から、これまでの人生でもらった中で、一番大きな拍手を送ってくれた。

生まれてはじめて、自分の音楽がこの世界に響いた瞬間だった。

 

「もう今回、ぼくからみんなに話せることはないけど、最後に」
そう言うと、先生は空っぽのグラスを1つ、何ものってない机の真ん中に静かに置いた。
「本当は、これも鳴ってるんだよ」
「え?」という顔をしているボクたちに、先生はことばを続けた。
「うん、ぼくたちの耳にはよく聞こえないかもしれない。でも本当は、これも今かすかに震えてて、音を出してるんだ」
ボクたちは黙って、身動きひとつしないで、じっと机の上を見つめていた。
「止まってるものは何ひとつないんだ。どんなものも、もちろんぼくたち1人ひとりも、そしてすべての瞬間が、それぞれみんな違う『音』で鳴ってるんだ」

 

最後に聴こえた“静寂”がいまも、ボクの耳にずっと響いていた。
そして今、ボクは自分にとって、何かとても大切なことが起こっているような、そんな気がどこかでしていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

朝日が昇ってきた。
窓ガラスににじむ朝の光のまどろみのなかで、目を覚ました僕は、なにがなんだかわからないように、ベッドに寝転んだまま、しばらくぼんやりとしていた。
「なんだったんだろう、いまの夢は‥」
昨夜降りつもった雪に、この世界のすべての音がしずんで、まるで何もかもが止まっているようだった。
「でも、すっごい楽しそうだった‥夢のなかの自分も、まわりの友達や先生も」
僕の感覚に、実際にそれを体験していたとしか思えないような生々しさが残っていた。

そして次の瞬間。
「こんな学校をいつか作ろう」。僕はそう思っていた。
それは何か大きな決意のようなものではなく、まるで初めからそこにあったかのように、胸のなかに音もなく浮かんだ思いだった。

 

大好きだったお父さんが死んでから、今日でちょうど一週間。
子どもたちのために新しい学校をつくることが夢だと言っていたお父さんのことばが、ふと胸に思い出された。
「夢と現実の世界は、本当にはそんなにはっきりと分かれているものではないんだよ」

 

「‥! お父さんだったんだね‥!」

そのとたん、今日も涙が溢れてきた。
あれから毎日涙がとめどなく流れては、先が見えなくなる。
でもこの日、ベッドのなかでこぼれ落ちる涙は、どうにもならない悲しみだけでなく、その大きな雫のなかでお父さんが微笑みかけているのが見えた。

 

七日目の夢。
それはクリスマスの朝に届いた、かけがえのない贈り物だった。

 

シミズカイル作(草稿版)